Home / 通信バックナンバー / No.83(2016年冬) / 児童虐待問題の現状について

児童虐待問題の現状について

峯本 耕治 

 11月25日・26日に大阪中之島の国際会議場で日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)の学術集会「おおさか大会」が開催されます。日本子ども虐待防止学会は、1996年に「日本子ども虐待防止研究会」として発足した会で、医療・保健・福祉・教育・司法・行政などの虐待防止に関わる実務家や研究者からなる学会です。虐待防止についての法整備や体制整備、専門性の向上等を目的として様々な活動を行っています。毎年この時期に全国を廻りながら大きな学術集会を開催していて、全国から毎年2000人以上の会員が一同に集合する、たいへん大きな学会です。大阪は、発足時の1996年に学術集会が開催された場所で、20年ぶりに戻ってきたわけですが、3000人以上が参加する巨大な大会となりそうです。
 児童虐待問題を取り巻く状況は、この20年の間に大きく変わりました。児童相談所への虐待通告件数を見ても、1996年には4102件でしたが、2015年には10万3260件に達しています。実に25倍の増加率です。虐待種別を見ても、身体的虐待が約50%を占めていた状況から、過去10年間を見るとネグレクトの割合が増大し、更に、近年は泣き声通告の増加や面前DV通告(子どもの面前での配偶者間暴力)等の増加により、心理的虐待の割合が著しく増大してきています。虐待問題への社会的な認識が高まり、取組体制が整備されるに連れて虐待の発見率は高まりますので、通告件数の増加自体は否定的に捉える必要はありません。しかし、さすがに、この通告件数の増え方は、虐待の実数自体が増加しているのではないかとの不安を感じさせる数字となっています。貧困等の経済的問題を背景に持ったネグレクトは確実に増加し、その現れ方も多様化してきています。また、身体的虐待とDVを含めた家庭内の暴力問題は相変わらず深刻な状況にあります。特に、命に関わるような衝動性の高い暴力が増加してきていることが大変気になるところです。極端な過干渉・支配や勉強面で極端に強いプレッシャーがかけられている等の過プレッシャー型の虐待も増加しています。日本の家族が、ネグレクト型と過プレッシャー型に両極化していっているのではないかと不安を感じてしまいます。
 そして、全般的・一般的にも、子育てに大きな不安やストレスを抱えている親が増大していて(先日のNHKスペシャルでは約7割の母親が子育てに不安を抱えているとの報告がされていました)、それがうつ等のメンタルヘルスのリスクを高め、また、ネグレクトや暴力の増加の背景的原因となっています。核家族化と地域コミュニティーの崩壊、少子化、遊びの環境の変化、バブル崩壊以降の経済状況の悪化、ネット社会化によるコミュニケーション方法の変化など、様々な環境変化の中で、親自身が未熟化し、また、情報は溢れていても、実際に子育てをしたり見たりする経験・機会を持てない中で、子育てのスキルを自然に見につけることができず、自信を持つことができず、子育てに関する不安を抱え、孤立感や孤独感を抱えている親・家庭が増大しているのです。現在の社会風潮の中で、「良い親プレッシャー」が高まっていることも、親の不安を強める要因となっています。
 他方、この20年間に虐待防止の法整備や体制整備もそれなりに進んできました。この点については、JaSPCANの存在とその取組は大きな役割を果たしてきたのではないかと思います。2000年には児童虐待防止法が制定され、その後も、臨検・捜索の裁判所の令状制度の創設、親権停止制度の創設など、児童相談所の法的な介入権限も強化されてきました。また、市町村が虐待対応の第一次的な相談・対応機関として明確に位置づけられ、機関連携のコーディネート機関として、各市町村に要保護児童対策地域協議会の設置が義務づけられました。実際に、現在では、児童相談所と共に、市町村の要保護児童対策地域協議会が、虐待防止の取組において、極めて重要な役割を担うようになってきています。
 その点では、この20年間に日本の虐待防止制度も、表面的・制度的には、それなりの段階に達してきており、実際に、以前と比べると、はるかに多数の虐待ケースに、児童相談所や市町村を中心とする関係機関によって、何らの支援や介入が行われるようになってきています。
 しかし、他方で、前述のとおり、様々な取組にもかかわらず、日本の児童虐待問題は一層深刻さを増してきています。メディアを賑わす虐待死亡事件等の重大ケースも跡を絶ちません。やればやるほどケースが増加し、対応が困難なケースも多く、虐待防止に取り組む関係者は疲労感・閉塞感を強めているというのが正直なところではないかと思われます。
そのような厳しい状況の中で、近年は、虐待問題が発生してからの事後的な対応だけでなく、予防的な取組の重要性が強く指摘されているようになってきています。
 具体的には、①子育てに関する不安環境、孤立環境を改善するために、共同保育・共同養育の環境を整備していくこと、②多くのケースにおいては周産期から虐待につながる要因・問題が見えていることから、配慮を必要とする家庭に早期に気づき、妊娠期から、乳幼児期にかけて、一貫した子育て支援を行っていくことの重要性が強く指摘されるようになっています。
 JaSPCAN「おおさか大会」においても、このような取組をテーマにした様々な企画が予定されています。

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