Home / 通信バックナンバー / No.84(2017年夏) / 子どもの自殺について

子どもの自殺について

弁護士 峯本 耕治 

 先日の新聞報道で、日本の自殺者数が、2003年の3万4427人をピークに相当減少してきているが(2016年2万1897人)、依然として先進国の中で高い値を示しているとの報道がありましたが、実は、子どもの自殺については、より一層、心配な状況にあります。
 2016年の警察庁統計によると、小中校生の自殺者数は合計320人(小12人、中93人 高215人)に上っています。過去10年間を見ても年間300人前後で推移しており、数字上は大きな変動がありませんが、子ども人口は減少してきていますので、子どもの自殺率は上昇傾向にあるのです。
 更に、自傷行為についてみると、少し前の調査結果になりますが、中高生の約10%、男子7%、女子12.5%にリストカット等の自傷行為の経験があるとの調査結果があります(全国高校PTA連合会2006年調査)。10人に1人の子どもが自傷行為を経験しているというのは、驚くべき数字です。
 上記の警察庁統計によると、自殺の原因としては、学業不振等の学校問題36.3%、親子不和等の家庭問題23.4%、うつ病等の健康問題19.7%、いじめ1.9%(6件)となっています。
 子どもが自殺に至る時には、①自尊感情の著しい低下、無価値観(生きていてもしかたない、自分はだめだ、生きる価値がない等)、②著しい孤立感、基本的信頼感の著しい低下(誰も信頼・信用できない、助けてもらえない、自分はひとりぼっちだ等)③強い不安感、苦しみが永遠に続くという絶望感、④それ以外に楽になる他に方法がないと感じるなど視野が極端に狭い状況に陥っているなどの、たいへん厳しい心理状態に陥っているのが一般的です。
 子どもが、このような心理状態に陥るのは、やはり、家庭環境、学校環境、友人関係など子どもが生活している生活環境において、全体として、愛情・安心・安全が欠けている状況があり、そこに、きっかけとなる出来事が発生し、そのような心理状態に陥るというのは一般的だと思われます。たとえ厳しい状況に置かれていても、生活環境のどこかに、愛情を感じることができる、安心できる居場所、少しでも自尊心が満たされる居場所、楽しいと感じることができる居場所があれば、それによって支えられることになると思われるからです。
 この愛情・安心・安全環境という観点から見た場合、前回のニュースで書きました児童虐待の増加と深刻化は、たいへん気になる点です。特に、家庭の中の暴力(身体的虐待、DV)増加と共に、極端な過プレッシャー環境や親子関係等の悪化による見捨てられ不安環境などの心理的虐待の増加は、この愛情・安心・安全環境に直結する問題です。
 また、学校環境についても同様に心配な状況にあります。97%を超える子どもが高校に進学する中で、高校においても5教科等を中心とする学力評価が基本となっています。このような単線的な学力評価中心の環境では、子どもは、学年が上がるにつれて、自らの学力・成績評価に直面させられ続けることにより、一般的に自己肯定感が低下しやすい状況となります。これに現実的な進路不安が重なると、一層、自己肯定感が低下しやすくなります。この点について、「日本を含めた7ヵ国の若者を対象とする意識調査」等においても「日本の高校生の自己肯定感の低さ」や「学年が上がるについて自己肯定感が低下する傾向」が顕著に表れています。
 また、学校における愛情・安心・安全のためには、教師との愛着・信頼関係と共に、友人関係が決定的に重要です。上記の警察庁の統計によると、「いじめ」を原因とする自殺の比率は1.6%と高くありませんが、「学業不振等の学校問題」の中に、子どものたちの友人関係上の問題は相当程度含まれているのではないかと思われます。
 特に最近は、スマホやSNS等の急激な普及により、子どもたちのコミュニケーションのあり方自体が変化し、子どもたちの対人関係スキルが育ちにくく、些細なことで傷つけたり、傷つけられるという対人関係トラブルが増加しています。また、もともと日本では、いわゆる「和の精神」をベースにして、良くも悪くも、ピアープレッシャー、同調圧力が強めの環境にあったと思われますが、スマホ・SNS文化は、それに拍車をかけています。一見すると良好な関係に見えても、気遣いが多く、他者評価に過敏で、自分の気持ちや意見を率直に表現することが難しい、ストレスフルな表面的・萎縮的な関係に陥りやすい状況が進んできているように感じています。
 このような状況の中で、全体として、子どもたちが安心できる友人関係を持ちにくい環境となってきています。この友人関係の脆弱さは、家庭環境における虐待の問題と並んで、子どもの愛情・安心・安全環境に直結する問題と言ってよいと思います。
 このような環境が、諸外国と比較しての日本の子どもの自殺率の高さにつながっているのではないかと思います。
 学校における子どもの自殺予防の取り組みについても、様々な取り組みが始まっていますが、平成21年3月に文部科学省から出ている「教師が知っておきたい 子どもの自殺予防」というガイドラインは、それなりに充実した内容となっていて、学校現場でも不十分ながらも利用されているのではないかと思います。インターネットでも見ることができますので、ご覧になってみてください。

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