Home / 通信バックナンバー / No.86(2018年夏) / ドラマ「やけ弁」とスクールロイヤー

ドラマ「やけ弁」とスクールロイヤー

弁護士 峯本 耕治 

 事前にお伝えできれば良かったのですが、4月21日から5月26日まで、NHKの土曜夜のドラマで「やけに弁がたつ弁護士が学校でほえる」(通称「やけ弁」)という題名で、「スクールロイヤー」を主人公とする連続ドラマ(6話)が放映されました。大阪のスクールロイヤー制度についての情報提供がきっかけとなって制作されたドラマで、私自身も「法律考証」という立場で、このドラマ制作に関与することができて、たいへん貴重な経験をすることができました。
 困難な保護者対応、部活動と教師の労働環境問題、学校事故、不登校、いじめ問題など、学校が直面する様々な問題について、神木隆之介君が演じる新人の弁護士が、学校配置(週2回)の「スクールロイヤー」として、法律を武器に立ち向かっていくというドラマです。
 学校に週2回配置されている形の「スクールロイヤー」は現在の日本には存在しませんので、このドラマに本当のモデルはありません。しかも、多数の利害関係者が存在し、複雑に入りくんだ学校問題を、弁護士が法律を武器に単純に解決できないことは明らかですので、各回約30分のドラマで、一体どれだけのことを描くことができるのか、リアリティのある面白いドラマになるのかなど、たいへん不安でしたが、社会性もあって、エンターテイメント性も高いドラマになったのではないかと思います。あらためて、ドラマ作りを担っておられる脚本家やプロデューサー、監督等の能力・専門性の高さに驚かされました。撮影現場も見学させていただいたのですが、神木隆之介さん、南果歩さん、田辺誠一さん、小堺一機さん、濱田マリさん等の一流の俳優陣のスキルの高さに感激しました。
 「スクールロイヤー」という言葉を、このドラマで初めて聞かれた方がほとんどだと思います。それもそのはずで、昨年8月に文部科学省が2018年度より全国10カ所で、いじめや保護者とのトラブルへの対応について、学校の求めに応じて相談に応じる「スクールロイヤー」を派遣する取組を開始するという方針を発表したのですが、「スクールロイヤー」という言葉がメディアで使われたのは、これが初めてではないかと思います。
 ただ、以前にもご紹介したことがあるかも知れませんが、大阪(大阪府教育庁)では既に2013年からスクールロイヤー制度が始まっています。9名の弁護士が、スクールロイヤーとして府内の小中学校や教育委員会の相談を受けていて、年間100件以上の相談を聞いているのではないかと思います。
 スクールロイヤーの制度化も、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)等の専門家活用の流れの中で実現してきたものですが、最近になってスクールロイヤーが注目されるようになってきた最大の理由は、「保護者対応の困難化」と「いじめ防止対策推進法及びいじめ防止基本方針等の制定」です。
 ドラマ「やけ弁」でも描かれていましたが、保護者対応の困難化は、現在の学校教育が抱える最大の問題の一つとなっていて、困難化の防止や学校と保護者との適切な関係調整の視点から、紛争解決の専門家である弁護士へのニーズが高まってきたのです。また、いじめ防止対策推進法等により、これまで学校長の合理的裁量に委ねられてきた、いじめ対応という生徒指導分野に初めて、法律によって具体的なルールが定められたわけです。学校に求められるいじめ対応・手続が具体的に定められた結果、いじめ事案についての事実調査と認定方法、被害生徒への支援方法、加害生徒等への指導・支援方法、保護者への説明・対応方法、重大事案への対応方法などを巡って、弁護士のサポートを必要とする事案が多数発生するようになっています。
 ドラマ「やけ弁」では、スクールロイヤーとして学校に配置された新人の弁護士が、法律を武器に白黒をはっきりさせる形で問題に切り込んでいく姿が、やや誇張された形で描かれていました。その中で、校長や教員と、共に悩み、時に激しく衝突しながら、自分自身も成長していく姿が描かれていて、それがドラマの大きな魅力となっていました。
 しかし、実際のスクールロイヤーの活動は、法律を武器にして問題に切り込むというより、今起こっている問題の背景や原因をしっかりとみたてて、その問題解決や関係改善のためのプランを学校・教員にアドバイスしていく役割で、多くの場合、調整的な役割を担っています。
 スクールロイヤーは、学校や教育委員会の代理人や代弁者ではありません。SCやSSW等と並んで、「チーム学校」との一員として、学校・教師のサポートを通じて、子どもの成長発達にとって極めて重要な場所である学校教育の安定を図ること、それによって子どもの最善の利益、安心・安全の環境を実現すること目的としています。
 学校で起こる問題は本当に様々で、法的な知識や視点、適正手続や危機管理の視点、紛争解決や紛争調整のスキルが求められていて、弁護士に対する相談ニーズは非常に高いと感じています。
 弁護士会でもスクールロイヤーの普及と養成に向けた取組を始めていて、今後、スクールロイヤーという言葉を目にされる機会が、少しずつ増えていくと思いますので、注目して見ていただければありがたいです。

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