粗食で生き返る

柴山 耕三郎 

Ⅰ 序
 年を取ると多くの人が身体のどこかしこで大なり小なり不具合が生じてきて、バランスの取れた良い食事をとることで体調を維持し、病気にならないようにしようと思う。ところで、皆さんはバランスの良い食事とはどういう食事を指すと思われるであろうか。
 肉ばかりや魚ばかりを食べないで肉や魚の他にスープやみそ汁などの汁物と野菜を適度に食べることが偏らない食事で、健康を保つためには、これは必須のことと思っておられることであろう。
 ところがこの考え方に抜本的な変更を迫る生き方が、世界中には至る所にある。例えば、カナダ北部やグリーンランドには日本人に近いモンゴロイド系民族であるイヌイット(エスキモー)が住んでいるが、気温が-40°Cもあるため彼らは野菜などは一切食べることが出来ず、一年中アザラシやセイウチなどの海獣の生肉を主食にして生きている。
 また、ニューギニア高地人の主食はタロイモ(里芋)で、狩猟による動物性蛋白質などは殆ど取らないで毎日を生活しているが、健康で筋肉隆々とした人が多いことが分かっている。
 これらの事実を知ると、我々が言うバランスのとれた食事が健康を保つ上で必須であるという概念にも再考を迫られる。つまり、イヌイットが住むような零下40°Cにもなるようなところでは、アザラシなどを仕留めたら、最初に肝臓や腸、腎臓などの内臓をまず食べて、その他の肉は放っておく。すると零下 40°C の世界なので肉は直ぐ凍ることになり、後でそれを削って食べるのである。このように内臓を含めてアザラシなどの肉を丸ごと食べている。
 また、昔米がとれずに、そばを朝昼晩食べていた地域があるが、そういうところのそばの食べ方は全部同じである。そばの殻を取ったら、それを丸ごと粉にして食べる。丸ごと使った粉で打ったそばは、黒くて太くて食べたらぼそぼそという感じになるが、精製度を上げた今のそばと違って栄養価が高く主食になる。
 これらの事から、何が分かるか。
 人間は住んでいるところでとれる旬のものを食べるのが、一番良いのではないかという考えが出てくる。地産地消である。もう一つは、丸ごと食べるということである。
 ところが、交易が発達した現代になると、世界中から特色あるいろんな食べ物が輸入される世の中になった。これらの食べ物は遠くから運ぶので、腐らないようにする必要があった。特に肉などの動物性蛋白質は腐ると食べることが出来なくなるので、ハムや腸詰なども含め、長持ちするように工夫がなされるうえ、防腐剤をはじめとする腐りにくくするための食品添加物などが施されている。しかしこれらの食品添加物は、我々の健康にとって悪影響を与えることが分かっており、できるだけ少なくする必要がある。
 以上の前準備を踏まえて、なぜ粗食が身体に良いのか主に幕内秀夫(1)~(4)の著作に則り述べる。

Ⅱ 粗食のすすめ
 朝食にご飯とみそ汁、漬物、焼きのり、アジの干物などを食べる人とパンにジャム、マーガリン、ハムエッグ、サラダ、ドレッシング、ヨーグルト、チーズなどを食べる人を比べたら、食品添加物はどちらが多くなると思われるだろうか。
 これは、間違いなくパン食の方が多くなる。
 なぜならパンやチーズ、ハム、コーヒー、ドレッシング、マヨネーズなどは工場で大量に作られ遠方まで運ぶことが出来るようにしているので、どれも全部食品添加物の心配をしなければならない。一方、ご飯、みそ汁、漬物、納豆などは遠方の工場で作られるものは少なく添加物が入っていても、たかが知れている。もともと味噌、漬物、納豆などが中心の日本食は、発酵食品が多く最初から腐っているようなものだからである。
 つまり、昔からの日本食は発酵食品が中心である。日本は湿度が高かったので、どうせ腐るならその前に上手に腐らせて、発酵食品を創り上げていたので、防腐剤などが少ない。ところがハムなどが腐ったらとても食べられない。
 肉などの加工品は腐ると危ないので、ハムなどの肉にはその歴史の初めから添加物が使われていた。だから無農薬の野菜を使ってサラダにするにしても、パン食をしながら安全性を考えるとしたらお金がかかる。
 現在の食生活には、余りにも農薬や食品添加物や化学物質が多すぎることを知らねばならない。ところが、パンからご飯に変えるだけで添加物は相当減るのである。
 したがって、食生活の改善で一番大事なことは、とにかくご飯をきちんと食べることである。幕内秀夫(1)~(4)は参考文献で上げているように食に関して何冊も本を書いているが、彼のところにはご飯中心の食にしたら身体が変わったという内容の手紙が何通も来ているとのことである。
 アトピーで来院した12歳の女の子にご飯をたくさん食べるように指導したら、2回目に通院した時、一目見ただけで見違えるほど症状が良くなっていた。1回目の食事指導に来た頃は、1日にご飯を茶碗に1,2杯しか食べていなかったのが、今は1日に6,7杯食べるようになったし、おやつも全部おにぎりにしているそうだ。12歳の食べ盛りの年頃でご飯を1日に1,2杯しか食べていなかったということは、余計なものを山程食べていたということで、米食に変えるだけで添加物は激減しているであろう。
 なぜご飯を食べることが、そんなに重要かという理由は次のとおりである。
 人という動物の一番大切な基本的栄養素は、水と炭水化物(でんぷん)である。炭水化物の取り方として、米、小麦、イモ、トウモロコシなどがあるが、一番加工しないで食べられてしかも1億2000万の人が1年間続けて毎日食べられるのは米だけなのである。
 1964(昭和39)年の東京オリンピックをTVで見ていた当時の多くの日本人は、 おにぎりとみそ汁を食べていて身体の小さな日本人は、肉などをたくさん食べる外国人にはかなわないと思い込んだ。柔道でも負けるし、走っても遅いし、飛ぶのもダメだ。唯一頑張っていたのが、プロレスの力道山位であとはことごとく外国人に負けてしまうと思い込んでしまった。
 こういう歴史の中で作られた常識のせいで、私たちは以下に示すように食生活における三つの錯覚を植え付けられている。

(1) 錯覚その①
 一つ目は『肉を食べて筋肉モリモリ』という錯覚である。
肉にはたんぱく質が含まれているが、それが即筋肉モリモリにはならない。
 例えば、薄毛の人がわかめなどの海藻類をいくら懸命に食べても、毛が生えてくるわけではないことを知らねばならない。また、今でも赤ちゃんのためのお母さんの授乳教室で『おっぱいを良く出すためには牛乳をよく飲んでください』と言っているところがあるが、これも笑い話の類である。
 私たちは食べ物を消化するわけだが、消化というのはまさに消して化けるということである。ご飯にはおっぱいを作る成分があり、身体の中で様々な食べ物を消化しおっぱいを作るのであって牛乳を飲めばそのまま母乳の成分になって出てくるわけではない。
 だから、昔のある年齢以上の人はおっぱいを出すのに“餅”や“鯉”、“味噌汁”などを経験的に勧めていた。これらの食品を母乳の出ない人に勧める例が全国的に多かったことが分かっている。
 もしレバーを食べて貧血が治るのなら、レバーより血を飲んだ方がずっと手っ取り早いが、身体はそんな風には出来ていない。いろいろな食品から身体に必要なものをつくり上げていることを知らねばならない。

(2) 錯覚その②
 二つ目は『欧米型の食生活が日本食より優れている』という錯覚である。

 アトピーの患者は若い人が多いので、そんな患者やお母さんに『朝は、ご飯とみそ汁に漬物ですよ』と言うと、『えっ?』と驚く人もいる。パンとコーヒーと牛乳にサラダ、それが普通の朝食だと思っている人が多い。でも欧米の食生 活をまねた結果、一番大きく変化したのは主食より副食を多く食べるようになったということである。
 つまり、欧米の食生活を理想だと勘違いした結果、ご飯をしっかり食べることは貧しいことだ思い込んでしまったのである。欧米の場合は、パンを主食とは呼ばないが、日本ではご飯を主食と言っている。これはなぜか。
 日本の栄養学は、明治時代にドイツから学んだのが始まりで、ドイツの考えが基本になっている。ドイツという国は、北海道よりも少し北にあり、寒くて食物が育ちにくい環境にある。したがって、パンで腹一杯にするほど小麦が育たなかった上に、一度小麦を畑で作ると米と違って畑がやせて毎年同じ量の小麦を生産できないという欠点がある。米の場合、水田は今年100俵、来年も100俵と毎年同じように取れ、生産力が落ちないという素晴らしい性質がある。
 だから、ドイツでは小麦つまりパンで腹一杯にするというのは難しかったのであり、ここにパンを主食とよべない理由がある。小麦が不足するドイツの人たちは秋になると大量に豚を殺して保存し、冬にはそれを食べて過ごしてきた。なぜ牛や馬ではなく豚を殺したかというと、牛や馬は草を食べさせておけば良いが、豚は人と同じものを食べるからである。
 秋から冬と長期間豚肉を保存するため、最初は塩漬けにしていたが、そのうち、腸に肉を詰めてソーセイジやハムにし、さらに塩だけでなくコショウを加えて味の向上などが図られるようになる。
 以上述べたように、日本でご飯をたくさん食べてきたのは、自然が豊かで米の収穫量が毎年変わらず豊かであったからで、決して貧しいからではない。

(3)錯覚その③
 三つ目は『栄養素を考えて食事をすることが科学的で正しい』という錯覚である。これは、Ⅰの序でも述べたように極寒に住むイヌイットは肉しか食べないし、ニューギニア高地人は肉や魚は食べずタロイモが主な食べ物であるが極めて不思議なことに、筋肉隆々としていることなどからも、栄養素食事は錯覚であることが理解できる。

 例えば、ビタミンCが壊れるから生野菜しか食べないとか、カルシウムが大事だから毎日煮干しを食べるとか、蛋白質が豊富だから卵をたくさん食べるとか栄養素を考えていろんな説が出てきたが、これらはそれに反する説が出てくると、直ぐに変わる。TV の人気番組か何かでベータカロチンという高い抗酸化作用を持つビタミンは脂溶性ビタミンだから油で炒めた方が吸収がいいと言われると、今度は急に生野菜を止めて炒めて食べるようになる。また、卵にはコ レステロールが多いから良くない面もあるという説が流れると、途端に卵を食べなくなり、卵の売れ行きが減るという具合である。
 これらの三つの錯覚と戦後の食生活近代化論や栄養改善普及活動によって、日本の食生活は大きく次のように変わったのである。

  • 食生活の急激な欧米化によるご飯の減少
  • 農薬や食品添加物などの化学物質の急激な増加
 これにより何が起きたかというと、子供のアトピーや鼻炎、喘息などの疾患が増大し、同時に若い人の乳がんが急激に増えている。
 幕内秀夫が病院で接する患者の中で乳がんの患者が一番多く、年間何百人と接するが、これらの乳がん患者の特徴は、ご飯をほとんど食べなかった人ばかりである旨書いている。
 それではどうしたら良いか以下に述べる。

(1) カタカナ食を控える
 パンは、忙しくて手抜きしたいときだけに食べると良い。また、そば、うどん、もちといったひらがな食はまだ良いが、パンやラーメン、スパゲティなどのカタカナ食はあまり食べるべきではない。なぜなら、カタカナ食は油が良く合うからである。カタカナの食事はカタカナの食品を呼ぶ。パンを食べるとき一緒に何を食べるか考えてみると、ハムエッグ、コーヒー、サラダ、ドレッシングなどカタカナの食品ばかり出てくる。
 ラーメンも肉の加工品(チャーシュー)とかラードなどのカタカナが合うし、スパゲティもオリーブ油やチーズなどがつきものになっている。
 パンについてもう少し説明すると、朝は食べられても夜は食べられないもの、それがパンの正体である。また、朝食にパンが増えた原因は、夕食がなくなったことと関係している。夕食というのは夕方5時か6時に取る食事の事であって、9時や10時に摂る食事は夕食ではなく夜食である。夜遅くに食事をするので、朝起きた時におなかがすいていなく、ご飯では重いのでふわふわのパンを食べるようになるのであろう。

(2) 食の欧米化の見直し
 食の欧米化によりパンや肉、食肉加工品、牛乳、乳製品、油脂類、糖類などの摂取量が増え、さらに見栄えを良くするために精製食品の摂取も強烈に増加した。したがって、特に精製食品の摂り過ぎによりビタミン、ミネラルなどの微量栄養素の摂取不足を改善する必要がある。微量栄養素などは、昔より栄養豊かな食品をたくさん取っている現代の方が優れていると思う人がいるかもしれないが、必ずしもそうではない。米や麦などの精製度が上がると、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が減少する。例えば玄米や胚芽米、精製度の低い小麦、黒砂糖などには、多くのビタミンやカルシウム、リン、鉄などのミネラル類が豊富に含まれているが、我々は上白米や薄力粉、白砂糖など精製度の高い食品ばかり食べるので、これらの成分は減少する。

Ⅲ 最後に
 世の中にはいろんな民族がおり、ニューギニア高地人は余り狩猟などせずタロイモが主食であるが、筋骨たくましい身体をしているし、イヌイットは零下40°Cの世界に住んでいるので生肉しか食べられない。ところが、バランスの良い食事が健康を保つと信じさせられている我々日本人は、これらのことを知ると仰天する。
 それに本文で書いているとおり、確かに日本人はご飯を食べなくなった。私が小学生であった昭和30(1955)年代には、今のような食卓と椅子ではなく座卓に家族皆が座って、ご飯とみそ汁を中心とした食事をしていた。しかし、おそらくご飯食は日本人の貧しい生活の現れであると思い込んで、欧米風の食生活にあこがれていた人も多かったであろう。
 しかしある程度豊かになり、欧米型の食生活が日本でも日常見られるようになるにつれて、アトピーや湿疹、若い女性の乳がんの多発など従来見られなかった病気に悩まされるようになった。
 30~40代の若い乳がんの患者に食生活を聞いてみると、8割以上の人が朝食にパンを食べていて驚くほどみな同じような食生活をしているそうである。これほど似通った食生活をしている病気は他にない。本文でも書いたが、若い乳がんの患者の食生活の最大の特徴は、ご飯が異常に少ないということである。朝はパン食、でもパン食では何かもの足りないから、常に甘いお菓子やクッキーなどを食べている。パン食だから煮物、あえ物、おひたしよりも油を使った炒め物やドレッシングをかけたサラダが多い。果物は美容に良いからと、楽しみに食べる量をはるかの超えた量を食べている。つまり、ご飯を食べないで、パン、砂糖、油、果物などでカロリーを採るという食生活をしていたということである。
 それで病気になり、食事を変えなければならないと思うが、病院は何も教えてくれない。食生活の専門家はいないのである。
 病気の原因は単純には決められないとはいえ、殆どの乳がん患者がご飯食をしていないのが明らかになっているので、幕内秀夫は枝葉末節のおかずではなくご飯を積極的に食べるように指導すると言っている。  そしてこのことは多くの場合正しいのであろうと思われる。なぜなら、今も炭水化物抜きダイエットなる本やバランスの良い食事を勧める本が山のように出版されており、これらを含め多くの本を手にした読者は、何が良いか分からない状態になるであろう。
 しかし、ニューギニア高地人にとってタロイモが優れた食事であるのと同様に、数千年前から続いているご飯中心の日本食は日本人にとって優れた食事であるのは間違いないであろうと思われる。
 なぜ、ニューギニア高地人はタロイモだけで筋肉隆々となるかについては、数兆個に及ぶ腸内細菌が関与していて、彼らの腸内細菌を調べたところ人間より牛に近く“窒素固定菌”いわれる腸内細菌が芋のでんぷん質を蛋白質に変える力があるのだそうだ。
 そうだとすれば数千年に及ぶ進化の末、日本人の腸内細菌は健康に生きてゆくために必要な様々な栄養素をご飯から作り出しているものと推定されるので、パン食よりもご飯食が優れていても何らおかしいことはない。
 私も時々食べているパン食を減らし、もっとご飯を食べようと思う次第である。

Ⅶ 参考図書
1. 幕内秀夫著:『粗食で生き返る』(角川oneテーマ21)
2. 帯津良一、幕内秀夫著:三笠書房、『なぜ「粗食」が体にいいのか―「食生活」ここだけは変えなさい!』(知的生きかた文庫)
3. 幕内秀夫著:『40歳からの元気食「何を食べないか」-10分間体内革命』(講談社+α新書)
4. 幕内秀夫著:『1食100円「病気にならない」食事』(講談社+α新書)