教育

八島正明の絵(読売新聞日曜版より)

校庭 八島正明 1989 キャンバスに油彩 112.1cm×162.1cm(部分)

強い日差しのグラウンドに人の動きがあって、その先に影がゆれる。
 順序としてはそうだろう。
 だが八島正明の絵には、まず影があってその先には人や物があらわれるような不思議な感覚がある。この絵にも。
 昼下がりの皇帝に子らが群れる。影は大きく動いて刻々かたちを変える。
 本体とは別の意思をはらむもののように、それはどこか不穏で制しがたい。
 白と黒、光と影だけの世界は、遠い記憶の中の光景に似ている。日を浴びて子らは屈託無く動いている。
 やがて動きにとり残された静まりが見えてくる。1人しゃがんで外を向く子、その右を所在なげに歩く子。
 2つの影は一直線に重なって、そこに異空間が口をあける。画家が忍び込ませた1つの仕掛けがある。
「石の影を見て妹のことを思い出したんです。疎開中、栄養失調と天然痘で医者にかかることもなく2歳の命を落とした。確かに妹は存在したのに何も残っていない。影すらないんです。そこからですね、実像ではない、影という虚像を描き出したのは。私は絵を専門に学んでいないし西洋美術の知識もない。色への拒否反応がある。自分にはこれしかないという主題でした、影は。でも本当の色とは目に見える絵の具の類ではない、画面をひんめくった裏に潜むえたいの知れないものなんじゃないか、と思うこともある。仲間はずれの子ですか?これは昔の私です。ひっこみ思案で集団になじめなかった。今も変わりません。私も長く教師をしましたが、そういう子にこそ目を向けるべきなんです、大人は」

読売新聞1998年7月12日 日曜版より 芥川喜好

Last Updated on 2020年8月27日 by manager

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