教育

ラグビーワールドカップの南アフリカ戦勝利と高校生の部活動について

弁護士 峯本 耕治

イギリスで開催されたラグビーワールドカップの南アフリカ戦勝利がきっかけとなって、日本ラグビーの人気が沸騰しています。ラグビー関係者の1人としてたいへん嬉しいことなのですが、あの南アフリカ戦の勝利は、それに値する本当に驚くべき勝利でした。ラグビーに馴染みのない方に実感していただくのは難しいのですが、たとえば、サッカー日本代表が世界トップのブラジル代表やドイツ代表に勝利することも容易ではありませんが、現在の日本代表であれば10試合くらい戦えば1~3勝くらいしても全く不思議ではありません。しかし、ラグビー日本代表の南アフリカ戦の勝利は、極端にいえば「100試合やっても勝てる可能性はない」との一般的イメージの中での奇跡的な勝利でした(ただ、日本代表の選手たちは、ここ数年のエディ・ジョーンズ監督の下での強化の中で、勝利の可能性を具体的にイメージしていたようですが)。しかも、その奇跡的な勝利を、ワールドカップという最高の舞台で、最高のゲーム内容で実現したもので、まさに「アンビリーバブル」な勝利でした。「ラグビー史上最高の番狂わせ」、更には、「世界のスポーツ史上最高の番狂わせ」との世界のメディアの評価も決して大げさなものではありません。
 ラグビーは、格闘技的な要素を強く持ち、しかも、ボールを持って走ってパワーと技術によって相手ディフェンスを突破するという、ある意味で単純なスポーツであるため、身体的サイズ、パワー、スピード等の基礎体力・能力の差が結果に現れやすく、最も番狂わせが起こりにくいスポーツの一つと言われています。実際に、パワー・スピードで同格以上のチームとの試合では、前半は善戦していても、後半になって、身体的・精神的疲労から集中力が低下し、出足が一歩遅れたり、コンタクトの際に僅かでも押し込まれるようになると、バランスが崩れて、あっという間に大差がついてボロボロの試合になってしまうことが珍しくありません。そのため、格上のチームと試合をする際には、いつボロボロにやられるかもしれないという恐怖心と戦いながら、激しい肉体的疲労と消耗の中で、どれだけ、集中力と緊張感、チーム全体で役割への忠実さ等を維持できるかポイントになります。南アフリカ戦では、ワントライ・ワンゴールで追いつく7点以上の点差をつけられることがなかったために、最後まで、勝利へのモチベーションを持ちながら、「最高の集中力と緊張感」、「妥協のない勇気と忠実さ」、「反則をしない規律の高さ」を維持し続けたために、最後の感動的な逆転トライにつながりましたが、途中で2トライ以上の差をつけられていればバランスが崩れ、50対20等の大差の試合になっていてもおかしくありませんでした。
誰もまともに取り合ってくれませんが、私は、自分で勝手に、このようなラグビーの特徴から「ラグビーは最も精神性の高いスポーツ」だと言っているのですが、みなさん、どうでしょうか? ナンセンスな話ですが、今でも、ニュース等で南アフリカ戦の映像を見ると涙が出そうになるのですが、これはいつまで続くのでしょうか。
2019年には、日本でラグビーワールドカップが開催されます。それまで、現在のラグビー人気が続き、そして、この盛り上がりを通じて、ラグビーというスポーツの魅力が、人々、そして、子どもたちの間に浸透し定着していくことを、心から願っています。
御存知の方もいらっしゃると思いますが、私が大学でラグビーにはまっていた1970年代後半から80年代は、ラグビーは花形スポーツの一つで、特に大学ラグビーの人気は高く、早稲田と明治の早明戦は国立競技場に6万人の観衆を集めることができる唯一のスポーツと言われていました。ところが、90年代からサッカーのJリーグがスタートし、子どもたちの間でもサッカー人気が急激に高まり、また、少子化がどんどん進む中で、ラグビーはいわゆる3K(危険、きつい、汚い)スポーツの一つとして、怪我等を恐れる保護者にも敬遠されるようになり、その競技人口を大きく減らしてきました。過去10年でラグビー部がある高校数も激減し、また、ラグビー部はあっても、単独ではチーム(15人)が組めず、複数の学校の合同チームで全国大会予選等に出場しなければならないというような厳しい状態になってきました。大阪のいわゆるラグビー伝統校(天王寺や北野、四条畷など)においても状況は厳しく、ラグビー関係者にとっては大変ショッキングなことなのですが、今年度になって北野高校で部員数が2名となり、ついに休部に追い込まれてしまいました。
 今回のワールドカップによるラグビー人気が転機となって、ラグビーを始める子どもたちが増えてくれれば良いのですが、もう少し視点を広げて見てみると、今、高校では、全体的に運動部に入る生徒の割合が減ってきていて、特に、チームスポーツを選択する生徒の割合が減ってきています。
昔と比べて子どもたちの興味関心が多様化していること、いわゆる「スポ根的世界」の求心力も低下していること、子どもたちの中でむしろ濃厚な人間関係を回避する傾向が強まっていること、保護者意識の変化を含め安全面に不安を感じる傾向が強まっていること、大学浪人を嫌がる傾向が強まっていること、経済的理由等からバイトを優先する生徒が増加していること、熱意のある指導者も不足する傾向にあること等の様々な要因が重なっていると思われます。また、チームスポーツを避ける傾向は、陸上等の個人競技であれば、自分のペースで練習することが可能であり、チームスポーツと比較して、自分が休むことによって周囲に迷惑を掛けることもない等の意識から出てきているようです。
高校・大学生活の過ごし方には様々な形があることは理解しつつも、私自身は、高校・大学を通じて、まさに安直に、部活動に自分の「居場所」を見いだし、安心・信頼できる仲間に出会い、その中で、様々な対人関係スキルを学ぶことができたという実感がありますので、運動部に入る生徒が減少してきているというのは、少し寂しく感じています。
各高校でも部活動の活性化のために色々な試みが始まっているようですが、子どもたちが置かれている環境が大きく変化している中で、発想を転換した新しい取組が求められているものと思います。
また、学校スポーツにおける子どもの安全という論点も、これからの部活動を考える上で、たいへん重要なテーマだと思っています。
次号では、この「学校スポーツと子どもの安全」について、最近の判例も紹介しながら考えてみたいと思います。

Last Updated on 2020年9月29日 by manager

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