学校事故・事件

学校スポーツと子どもの安全について

弁護士 峯本 耕治

 スポーツには怪我はつきもので、特に、私は学生時代にハンドボール、ラグビーという激しい身体接触を伴うスポーツをやってきましたので、怪我は日常茶飯事でした。レントゲンをとれば身体中骨折痕だらけという状態ですが、幸いにして後遺症が残るような大きな怪我はしないで済みました。当時は、真夏に休憩も取らず、水分補給も認められないまま長時間にわたって走り続けるなど、今から考えると、大変リスクの高い練習を平気でやっていました。今から考えると、熱中症を発症していたんだろうなと思われるような状況も何度も経験しました。多くの学校スポーツ経験者も、私と同じような経験をしていて、怪我や痛み等の記憶もまた学生時代の思い出の一つになっているのではないかと思います。
しかし、学校スポーツ全体を見ると、やはり、思い出では済まされない大きな事故が、少なからず発生しています。最も深刻なものは死亡事故ですが、後遺症が残るような事故も年間相当数発生しています。特に、最近は、温暖化によって気温が実際に高くなってきていることや、エアコンが当然の環境の中で育ってきているため、子どもたちの身体的耐性も低下していることもあって、熱中症がらみの事故が増加しているように感じます。また、学校スポーツ等における子どもの安全や怪我についての保護者の意識も大きく変化してきていますので、事故について指導者や学校の責任が追及される事案も増加しているように思われます。
当然のことですが、学校スポーツにとって、子どもの安全の確保が、大変重要なテーマになってきています。
もちろん、学校スポーツで事故が発生したからといって、直ちに指導者や学校に法的責任(過失責任)が認められるわけではありません。学校に責任が認められるのは、①事故の発生が具体的に予見可能な場合(予見可能性)で、かつ、②結果の回避可能性が認められる場合(結果回避可能性)です。逆からいうと、事故発生の危険性が具体的に予見できる場合には、それをしっかりと予測して、その防止のために必要な指導や防止措置を講じておかなければならず、それを怠った場合に過失責任が認められることになります。
学校事故における学校・教師の過失責任がどのような場合に認められるかについては、これまで多数の判例が積み重ねられてきていますが、近年、注目すべき判例が出ていますので、そのうちの2つを簡単にご紹介します。
 一つ目は、福岡県の県立高校で、3年生の男子生徒が体育祭の騎馬戦で、騎手として参加し相手と組み合うなかで受け身をとることもできないまま落下し、落下した生徒が首を骨折し、首より下に完全マヒの障害が残った事案です。この事案について、福岡地裁は、①騎手の頭部が騎馬の腰の位置よりも下にきた時点(つまり、騎手を落とすこと)で勝敗が決まるという危険なルールの騎馬戦であったにもかかわらず、練習なしのぶっつけ本番であったこと、②勝敗が決まる時点に関して、ルールの設定や審判員の配置が不適切であったとして、学校の過失責任を認め、福岡県に約2億円の損害賠償を命じました。
騎馬戦自身を禁止したものではありませんが、そのようなリスクの高いルールでするならば、事故防止のための措置をきちんと講じることを求めたもので、子どもの安全確保の視点からは当然の内容です。他方、学校側には、高校の体育祭なので激しいぶつかり合いを経験させたいとか、保護者にも子どもたちが逞しく成長しているところを見て楽しんでもらいたい等の教育目的や教育的な思いがあったものと思われますが、そのような思いの中で、子どもの安全確保の視点が欠けてしまっていた事案であると思います。同種の問題として、小中学校の運動会におけるに「組み体操」問題があり、近時、教育委員会単位で、組み体操がエスカレートしないように高さ制限したり、組み体操自体を禁止しようとする動きが急速に広まってきています。
第2は、兵庫県立高校の女子テニス部キャプテンが練習中に倒れ、心停止となり低酸素脳症による重度の意識障害が残った事案です。一審の神戸地裁はウィルス性の心筋炎の可能性をあげて請求棄却としましたが、大阪高裁は熱中症と認定した上で、顧問教諭の注意義務違反を認定し、兵庫県に約2億3700万円の支払を命じました。
大阪高裁の判決は、当日の状況について①普段は夕方に部活動をしていたのに、日差しの強い日中に練習をした、②事故時において、コートは30度前後で地表はさらに10度前後高かったと思われること、③定期試験の最終日にあたり、練習は10日ぶりで、部員は睡眠不足の可能性があった、④被害生徒にとって顧問が不在時に練習をしきるのは始めてであるなど、大きな負担がかかる状況にあったこと、⑤顧問が指示した練習メニューは密度が濃く、これまでの真面目な練習ぶりから女子生徒が率先してこなすことが予想できたこと等の事実を認定し、顧問が一時不在になる場合には練習の様子を直接監督できない以上、部員の健康状態に配慮すべきであったと述べ、練習を軽くしたり、水分補給の時間を設けたりして、熱中症になるのをあらかじめ防止すべきであったとして、顧問の過失(注意義務違反)を認定しました。
判決内容によると、定期試験明けの練習初日という特別な環境・状況の中で、たいへん真面目な生徒と部活指導に熱心な先生の組み合わせの中で発生した事案で、その意味で本当に不幸な事案ですが、学校における体育指導やスポーツ指導においては、「子どもにスキルや力をつけさせる、子どもの成長発達を保障する等の教育目的達成の視点」と共に、「子どもの安全確保の視点」が不可欠であることを、あらためて認識させる事案であったと思います。

Last Updated on 2020年9月24日 by manager

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