エッセイ

ミツバチと私 2

公庄 れい

ミツバチ そしてこの十数年も放りっぱなしにされていたキンリョウヘンには数本の花芽まで着いているではないか。三月終り、私はその鉢を持って神戸から花園へ帰ってきた。そして夫は日本ミツバチに関する本を買ってきて、それを参考にして箱作にとりかかった。板は杉がよく、製材の時に付着油の匂いを嫌うのでなるべく古い板がよく、箱は風雨に曝して人工的な匂いを消した方がハチがよく入るなど、なかなか面倒なのである。板に焼き目を付けた方がいいと書いてあるのでその通にした。また蜜蝋を溶かして箱内部に塗るといいと書いてあるのでそれにも従う。これで至れり尽くせりの箱ができあがった。
その箱を何処に置くかがまた大問題である。日当りがよく、夏は直射日光が当たらず、ハチの出入りする巣門は南か東向き、そして風当たりの強くない所。私が家を建てたいような条件ではありませんか。いろいろ迷ったすえ家の西側の斜面の小さな畑に据えることにした。柿の木の根元で南側の一段下に道があり、南側一面何もさえぎるもの無しに何キロも先の山並みも一望できる場所である。
2010年五月はじめ、ほころび始めたキンリョウヘンの鉢を箱の前に置き一日に何度も様子を見に行く。五日ほどたった午後、一匹のミツバチが花のまわりを飛びまわっているがすぐ近くの箱には見向きもしない。翌日ハチの数は増え数匹集まって箱に入るものもいる。午後にはハチの数も増えいよいよ頼もしくなり何度も箱をのぞきに行く。翌日朝からハチは二十匹もいるのだろうか盛んに箱を出入りし、箱の中にいる時間も長くなっている。これは本物だと喜んでいると午後二時ごろあんなに賑やかだったハチがすっと消えてしまった。一二匹がたよりなげにうろついているだけである。
がっかりして箱を離れた時だった。うわーんという音と共に上空から黒雲のようなハチの大群が押し寄せて来た。キンリョウヘンの鉢も花もハチに覆われ、あたり一面ハチで霞んでしまったような一刻がすぎてハチはすい込まれるように箱の中に収まった。その間三十分ぐらいだったろうか。今、私が目の当たりに見たものは何だったのだろう。見る者の命の根源を揺りうごかすような自然の生命の営みに、私は今まで経験したことの無い感情におそわれて呆然と突っ立っていた。

それにしても日本のミツバチはどうしてシンビジュウムの一種のキンリョウヘンの花に集まるのだろう。この蘭の自生地は中国南部や台湾だという。そしてまだ蕾のときには蕾の根元にぽつりと蜜の粒をつけるが花が開くと蜜は無くなる。花が女王ばちの出す匂いと同じ匂いをだすのだというが、ヒマラヤの麓から東南アジアに分布するアジアミツバチの一種とされる日本ミツバチの祖先が日本に住み着いたのは大昔、日本列島がまだ大陸とつながっていた頃と考えられるが、日本には生えていないこの花との縁を日本ミツバチの遺伝子はずーと伝えて来たのだろうか。
ミツバチというこの不思議な生き物に私はめぐりあってしまったのである。

つづく

Last Updated on 2020年10月8日 by manager

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