エッセイ

ミツバチと私 3

公庄 れい

ミツバチは可愛い。ミツバチを飼っている人は皆そう言う。私のミツバチの先生小迫さんは「こんな可愛いもんは無いで」と言う。私もそう思う。犬も猫も可愛いが、ミツバチには自立して生きているものの持つ健気さと気高さがある。小さな体で両足にいっぱいの花粉のの球をつけて巣箱にたどり着くミツバチを見ると抱き締めてやりたいような気分になる。勿論それはできないから私は言う。
「あんた達は偉いねぇ、いい子ちゃんやね」と言いながら暇があれば巣箱の側にすわりこんでいる。蛆虫の形の蜂の子は花粉を食べて大きくなるのだという。
ニホンミツバチは西洋ミツバチに比べると病気にかかり難く天敵のスズメバチへの対処法も心得ているのだという。6月のある日、一匹の蜂が草むらの中をよろよろと歩きながら巣箱から遠ざかって行くのを見た。蜂の体は白っぽく明らかに健康体では無かった。
ミツバチは社会性昆虫と呼ばれている。一つの社会としての秩序の中で暮らしているのである。限られた資源の中で、ミツバチの場合はエサの生産活動に従事できないものは消えて行かねばならない。巣から遠ざかるハチは自らの遺伝子に従ってそうせざるを得ないのであろうか。しかしミツバチの巣箱の中には蜜も花粉も運ばずタダメシを食ってのうのうと暮らしている一団がいる。雄蜂である。
ミツバチの一群の数は、日本ミツバチで数千から2万匹、西洋ミツバチでは3万から数万匹だそうである。そしてそれは一匹の女王蜂から生まれた娘と息子からなっている。春女王蜂は交尾の為に飛び立ち、複数の雄の精子を受け取り、もう二度と飛び立つことなくひたすら卵を生み続けるのである。殆どは娘、つまり働き蜂で私たちが日常的に目にするミツバチであるが、群れの一割にも満たない数の雄蜂は生殖のためだけに産みつけられたので、針は持たず蜜を集めにいくこともない。春から初夏にかけての好天の午後、大空に飛び立って交尾をする。
雄蜂は働き蜂より大きくずんぐりとして色が黒い。敏捷な働き蜂と違って飛び立つときも大きな音を出してそうぞうしい。そして殆どの雄は交尾がかなわずまた大きな音を立てながら帰ってくるのである。坂上昭一氏の「ミツバチの世界」にはこう書かれている。
“かれらの巣の中ではほとんど何もしない。ときどき脚で身繕いする。働き蜂から餌を貰う。あとの時間、ほとんど80%の日々のくらしは静止してすごす。彼らには唯一神聖な役割がある。交尾・受精によって、次代に遺伝子を伝えること。彼らは巣内では決して性行動をおこさない。巣を離れて空中高く飛び立ったとき、彼らははじめて使命に目覚める。オスは飛びながら前・中脚で女王に触れ、すぐ後ろ脚の捕捉器を使って彼女の後脚を捉える。一秒半後、交尾器は女王の体内で膨張し、受精が起こる。ただちにオスはショック死を起こし、飛び続ける女王の尾端にしばらく吹き流しのように付着したのち、離れて落下する。”
壮絶な自然の生命の有り様である。

つづく

Last Updated on 2020年10月5日 by manager

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