エッセイ

ミツバチと私 4

公庄 れい

皆さん、ニホンアナグマという動物をご存知ですか。大きさも姿もアライグマそっくり、違うところはアライグマのしっぽには横縞があるが、ニホンアナグマには縞が無い。そして鼻の横、頬の部分に縦縞がある。とても可愛くてペットにしたいと思わせるような動物である。が、私はコイツに散々な目に遭った。
四箱ある中の一箱のミツバチの様子がおかしい。仔(白い蛆)を咥えて巣の外に運び出して捨てるのである。もう親と同じような形になった子供は親バチよりも重いと思われるので、ミツバチにとっては大変な作業である。捨てられる仔の数は日を追って増え一月ほどすると、巣に出入りするハチの数はめっきり減ってしまった。もうこの箱は駄目とあきらめて箱を開けてみると、巣は巣虫に食い荒らされ、蜜もほとんど無く巣も黒く変色している。
ニホンミツバチは天敵の、キイロスズメバチやオオスズメバチとは果敢に戦い、一匹の敵に数十匹が群がって団子になり、自分たちの体温で中のスズメバチを熱殺するのである。こんな技を持っているニホンミツバチも巣虫にはお手上げ状態でなすすべ無しのようである。で私は巣を全部とり出し巣箱の隅々まで巣くっている巣虫を掻きだして掃除をした。巣虫のいっぱいいる巣は庭の隅に放って置いた。これがアナグマを呼び寄せるエサになるとは思ってもいなかったし、そんな動物が居ることさえ知らなかった。
それから一月ほど経った朝早く、おーい おーいという声と戸をどんどん叩く音で起こされた。外に出てみると、隣のおじさんが「ミツの箱がエライコトなっとるぞ」いう。リビングの外壁に寄せて置いていたミツバチの五段の重箱型の箱が壊され転がっている。慌てて箱を元に戻し中を覗くと、一番上の段の片隅に残ったわずかばかりの巣にミツバチが脅えたように固まっている。何物が襲ったのかこの段階では判らなかった。
その夜私は寝室の戸を開けて物音が聞こえやすい状態にして眠りについた。夜中ガタガタという音に跳ね起き、用意していた懐中電灯を持って飛び出した。箱に手をかけていた何物かがさっと逃げた。チラッと見た其の後ろ姿から私は猿かなと思った。その次の晩にもやって来て今度は箱に首を突っ込んでいたので私は尻をひっ叩いた。懐中電灯の光ではっきり見た顔は、以前図鑑で見たアナグマそっくりで両頬に縦縞があった。私はミツバチの箱を家の壁にしっかりとくくりつけ少々叩かれても大丈夫にしたが、アナグマはしつこく来て箱を引っ掻いた。そんな数日が経った日の午後、一斉に箱から水のように流れ出したハチが、家の前の空の一カ所に渦のように集まった。かと思うとサーと杉の木々の向こうへ消えて行った。
それから一年以上経ったある時、私は何か甘い物が欲しいなと棚を見ると、あの巣虫にやられたハチの僅かな巣から採った蜜が小さなビンに入っているのが目についた。蓋を開けるとふわっふわっとした綿飴状のものが蜜の上にある。掬って口に入れると甘酸っぱい何とも品のよい味が、体中に、いや心も含めた私全体を包み込む。プロの蜂蜜屋さんはニホンミツバチの蜜は一年では絞らない。ジュースのように糖度が低くて発酵するからだという。だから売られている蜂蜜ではどんなに上等でもこの味は味わえない。ありがとう、私の大切な大切な小さな彼女達よ。

終わり

Last Updated on 2020年10月4日 by manager

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