エッセイ

闇市的戦後から「戦前」としての今

田中 英雄

 小学校へ行く前の頃の事を急に思い出したので書いておこうと思う。敗戦後の明石の南には闇市が出現していて、その一角で姉たちとふかし芋を売っていた。石炭箱の上にザルに入った芋を並べて売るのであるがよく売れてすぐに無くなってしまう。家には部屋の底が抜けるのではと思う程田舎から仕入れた芋がうず高くつんであった。
私は姉たちが家に急ぎ帰ったあと、一人でそこに残って「おいも、おいも、こーて、こーて」と叫んで売るのが得意になっていた。一つのザルに2個入れたのが飛ぶように売れた。
闇市には面白いものが並んでいたが、お腹がへって買ったふかし饅頭の中にはいわしの切り身が入っている等妙な味を強烈に覚えている。
小学校では全校そろってよく映画館に行ったものである。何年生の頃だろうか「きけわだつみの声」ーインパール作戦で敗退して行く本隊について行けなくて続々と手榴弾で自爆する暗い画像のみを覚えていた。最近再び見直して子どもの頃印象に残らなかった重要なシーンを記しておく。
大学教授が何故か狙われ部隊の指導係の男にジャングルに連れて行かれ撃ち殺した鳥を犬のようにして口でくわえて走るという酷いイジメシーンである。
イギリス軍の砲撃に身をさらしながら、そこで大学時代の教え子に出会って、教授が「このように無力になる前に必死で我々は斗うべきではなかったか」と述懐する。教え子は学生時代全学集会を開き問題を提起はして来た。しかし中心になって動いた人物には特高が家にやって来て母親が我が子が連行されて行くのを叫びつつ見送るシーン。
小学生にこの様な映画を見せる戦後教育と序々に教育界が整備されて行き、それにつれて自由さを奪われて来た戦後70年の今は、「戦前」であると覚悟すべきことをこの映画を観て感じさせられている。

Last Updated on 2020年9月20日 by manager

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