生活

上有天堂、下有上海?

森池 豊武

中国には、昔から上有天堂、下有蘇杭(天上には極楽、地上には風光明媚な蘇州・杭州がある)という言い回しがあります。今年の3月、新聞を見ていて、LCC(格安航空)の春秋航空が、上海──関空間に新設航路を開設との記事がありました。片道6400円と破格の値段につられて、3月15日から20日まで、上海へ行くことになりました。航空券の予約、座席の指定、ホテルの予約も携帯電話で全てできますので、以前のように海外へ出かけることに対する構え等は殆どなくなっております。
2時間程度のフライトなので、何のサービスも無いバスのような客室も苦にはなりません。三年前に慌ただしく、上海を訪れる機会がありましたが、ゆっくりできなかったので、今回は、じっくりと上海の街と中国の人々の生活に触れることが出来る旅行をしてみたいと思っておりました。移動手段は地下鉄(上海には15路線もの地下鉄網が完備されています)と徒歩だけで5日間上海の主だった街区は走破しました。上海公共交通カードを買えば、地下鉄・バス・タクシー・船舶等殆どの公共交通が利用できます。一々、切符を購入するのに並ばなければならず煩雑なので、とても便利でした。100元で購入したカードで5日間フルに利用することが出来ました。
中国の中でも上海の経済的繁栄と都市の変貌は著しいものがあります。繁華街である南京東路や南京西路等には巨大な規模のブランドショップが林立しており、35年前に鑑真号という船で、何日もかけて上海に上陸した当時の面影は殆ど残っておりません。しかし、表通りを少し外れると、林立したアパートの窓には洗濯物が満艦飾に干されている等、日常生活のたたずまいには大きな変化はないように思われました。
初めて、中国でバスに乗ろうとした時に、日本での習慣(降りる人が降りてから乗車する)は何の意味もないことを思い知らされました。バスのドアーが開いた途端、中から降りようとする人々と、乗り遅れまいとする人々のバトルが展開され、一瞬のうちに勝負は決し、おとなしく待っている旅行者はバスには決して乗れません。修羅場を乗り越えて、バスに乗ると、立錐の余地もないほどの満員状態です。その当時は、車掌さんが乗車しており、切符の販売を一人でこなしていました。車掌さんが車内を移動することは不可能ですが、乗客みんなが協力し、切符と代金の引換が頭上空間で整然と行われます。それを見て、中国人は乗降マナーを守らず、バス空間は無秩序状態であるという表面的な見方は誤っていることを知らされました。「無秩序状態における秩序」という概念を獲得できたことは大きな収穫でした。
 現在、上海の地下鉄は全て自動改札で、全ての駅のホームには転落防止のための自動ドアーが設置されており、設備や案内表示は日本よりはるかに進んでおります。乗降客が少ない昼間では、降りる人が降りるのを待って、乗車するという光景が見られたので、ずいぶんマナーが向上したという感想を持ちました。しかし、ラッシュアワー時は様相を異にします。電車が到着しドアーが開いた途端、降りようとする力学と出口付近で踏ん張って降ろされまいとする力学と乗り込もうとする力学が錯綜し、電車が到着する度に同じ光景が繰り返されます。上海では、通勤するためにも多大のエネルギーと体力が必要であると痛感しました。乗降マナーを守るようにとマイクで叫んでいる地下鉄職員のおばさんがいたので、「大変ですね」というと「喉涸れるわー」と言っておりました。
片道4車線はある幹線道路は膨大な数の車で埋まっており、日本と比べるとはるかに速いスピード(最低50キロから60キロ)で疾走しております。信号には青になるまでの秒数が表示され、車は青になった瞬間にレース状態で発進するので、信号を守らない人間は命を落としかねないほどです。しかし、市街地の道路では、信号とは無関係に、事故の判断で横断する人はごく普通に見られます。立派な歩道と計画的に植栽された街路樹が街の美しい景観を形成しており、学ぶべき点が多くあります。しかし、きれいな街並にも拘わらず、あらゆる道路で人々が平気でゴミを捨てています。一方、早朝5時ぐらいから一日、ホウキでゴミを集めリヤカーで運んでいる労働者が各道路に張り付いています。綺麗にしても翌日はまた、ゴミだらけの道路、賽の河原の石積みのような労働にどのような意味があるのか。中国社会の貧富の格差・農村と都市の格差等、社会が抱えている矛盾も多くあると感じました。
ホテルでは、殆ど食事を取らず、普通の人々が利用している繁盛しているお店の料理を食べるようにしていました。どの店も本当に美味しく、極めて安価に満足できる食事を提供してくれております。中国の人々の味覚は極めて優れており、食べるということに情熱を費やしております。日々の生活で消費する膨大なエネルギーを補うために、日本人の平均的な食事の量の優に2倍は食べているのではないかと感じました。漠千山路50号という工場跡地にできた現代アート工房も堪能し、中国の古代からの遺産が集積している上海博物館等も時間をかけて鑑賞できました。
中国と日本の関係が、習近平国家主席と安倍晋三首相の対立や、領土をめぐる国家間の綱引きによって、危機的な状況が生み出され、そのこと等を奇貨として憲法9条を無意味にする集団的自衛権の必要性が声高に叫ばれている昨今、極めて近い隣国である中国の人々との交流を積み重ねていくことの大切さを実感した旅でもありました。上有政策、下有対策(共産党の一党独裁という状況下で政府がどのような政策を出そうとも、庶民は知恵を出ししたたかに生きていく)という生活習慣を持っている中国の人々に今後とも、温かい目を向けて行きたいと思います。

Last Updated on 2020年10月12日 by manager

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