石田僚子さん追悼20周年記念文集

高塚事件20周年と子どもの人権への私の取り組み

峯本 耕治

 高塚高校の事件から、もう20年になるのですね。所さんをはじめとして、この会の活動を支えてこられた皆さん、本当にありがとうございました。高塚事件は弁護士登録2年目の最初に起こった事件ですから、私の弁護士キャリアとほぼ同じだけの年月が経過したことになります。学校に登校しようとした生徒が、子どもを守り育てるべき立場にある教師によって閉められた門扉に挟まって死亡するという事件の「不条理さ」「矛盾さ」に、大きな悲しみと憤りを感じたものでした。
 当時は私も若くて熱かったですから、子どもの人権のためにすぐに何かをしないといけないという思いで、何の権限がないにもかかわらず、事件直後に大先輩の瀬戸則夫弁護士と共に、高塚高校に飛び込み調査に行ったことが思い出されますが、この20年の間に私自身の子どもの人権への取り組みも大きく変化してきました。
 弁護士になってから6年目頃までは、教師による体罰や校則問題を取り上げて学校の責任を追及したり、内申書開示請求の裁判を担当するなど、「学校の中に子どもの人権を」というストレートな思いで、むしろ、学校や教育委員会等との対立関係の中で様々な取り組みをしていました。
 しかし、その後2年間のイギリス留学を経てからの過去十数年間は、学校や教育委員会、福祉機関の中に積極的に入っていき、教師や教育委員会、児童相談所等の福祉機関と協働・連携しながら、第三者的な専門職サポーターとして、子どもの最善の利益を実現する活動に重点を移していきました(と言うより、やりたいことをやっているうちに自然にそうなっていました)。
 このような変化が生じた理由がいくつかありますが、主に次のような理由です。

① 個別ケースにおいて闘うことによって子どもの人権を保障していくことの意義や重要性は感じつつも(もちろん、現在もその意義に変わりはありません)、学校や教育行政と闘うことだけでは、本当の意味では学校や教師の中に子どもの人権についての意識が高まっていくとは実感できなかったこと。
② 学校・教師も子どもの成長発達を願っている以上、本来は、対立関係ではなく、「子どもの成長発達の保障」「最善の利益の実現」という共通の目標に向けて、協働して取り組めるはずだと強く感じるようになったこと。
③ 学校問題に取り組むなかで、問題行動やいじめ、不登校など子どもが抱える問題や課題が深刻になっていること、その背景・原因として家庭環境をはじめとして子どもを取り巻く環境がますます厳しくなっていっていること、そのようななかで、教師が子どもの問題や課題に合理的に対応できず、自信を失い、閉塞感や孤立感を強めていること、子どもの人権侵害と思われるようなケースも、そのようなしんどい学校環境の中で発生していることが多いこと、子どもの成長発達環境の保障という観点から見たとき、家庭と共に、学校が決定的に重要な役割を果たしていることなどをあらためて認識し、子どもの成長発達の保障のためには、学校・教師をサポート・エンパワーし、学校環境を充実する必要があると強く感じるようになったこと。
④ 2年間のイギリス留学中に、欧米諸国では、教育と福祉の連携や統合、スクールカウンセラーに加えて、学校と家庭の橋渡しや連携をサポートするスクールソーシャルワーカーの存在、保護者を含め様々な人的支援が学校に確保されているなど、学校をサポートするシステムが整備されていることを知り、そのシステムや活動に魅力と可能性を感じたこと。

 子どもの人権に対する取り組みにも様々な方向性とスタイルがあり、それらが相互に補完し作用しあうことにより人権保障が進んでいくのだと思います。私は、その中で、「子どもの人権」の意義を「子どもの成長発達を支える環境の保障」という点に重点を置いて、これからも活動していきたいと思っています。
 ただ、この「子どもの成長発達を支える環境の保障」という観点から見たとき、残念ながら、この20年間に状況はむしろ悪化しています。貧困問題や格差の増大、児童虐待やDVの深刻化、ネグレクトとプレッシャーの強い家庭環境の両極化、孤立感やイライラ・不安感を抱えた親の増大、遊びの貧困化、ネットやゲーム、ケータイ文化の定着、性や暴力に関する有害情報の蔓延、いじめの一般化・深刻化、萎縮的な友人関係、学習意欲の全般的な低下・二極化、居場所を失いやすい子どもの増加、教師の孤立感・閉塞感の増大、若年者雇用問題の深刻化など、子どもを取り巻く環境は著しく悪化してきています。
 正直なところ、その悪化のスピードに圧倒され、無力感を感じ始めていますが、少なくとも「自分が関わることができる範囲では、少しでも子どもの成長発達をサポートできれば」という思いで、今後もめげることなく頑張っていきたいと思っています。
 今後ともよろしくお願いします。

(みねもと・こうじ 弁護士)

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