社会

監視社会の行方

森池 豊武

西宮の山手にある住宅地甲陽園目神山町で、今、監視カメラが問題となっています。500世帯ぐらいで構成されている街区ですが、空き巣等も結構発生していることから、最近では個人住宅に監視カメラが設置されているケースも普通になっております。
問題となっているのは、通常の監視カメラ(玄関先などに設置され、来訪者を確認するタイプ)ではなく、360度全方位を撮影できるもので、商業施設や公共の空間に設置されているケースが多いものです。しかし、そのようなカメラを個人住宅の屋上に設置し、24時間、近隣も含めてカメラが監視機能を発揮するとなると、各家庭のプライバシーや、撮影された映像の管理や利用方法等が不明であることから、自治会長を引き受けている私のところに苦情が寄せられました。
いつの間にか、日本の社会には、監視カメラが蔓延し、いたるところでその姿を見ます。コンビニエンスストア、ATM、商店街、駅や公園等の公共施設、エレベーター、高速道路のNシステム、タクシー、学校、教室に至るまで、何百万、何千万というオーダーで監視カメラが設置され、今後も増え続けていきます。ひと昔前の刑事さんの仕事は、靴をすり減らし、聞き込みに回ることから犯罪の糸口を手繰り寄せるというものでした。しかし、現在の警察の捜査の第1順位は、地域社会のいたるところに張り巡らされている監視カメラの映像を収集することであると聞いております。
地域社会の絆、社会全体の人間関係が稠密であったころの日本では、監視カメラなどはもちろんなかった時代ですが、人々の視線がいわば地域の秩序を保っていくうえで大きな役割を果たしていたものと思われます。平和で、極めて治安のよい社会であるということが、世界の日本に対する評価です。監視カメラや防犯カメラを設置すれば、防犯効果があり万一犯罪が発生した時も、犯人逮捕に直結するものとしてこれほど短期間に、監視カメラが社会全体に普及してきたのでしょう。
好むと好まざるとに関わらず、私たちは日々の生活において何十回もカメラにさらされ、知らない間に撮影され、その映像がどこかに蓄積され、個人のプライバシーが侵害され続けているなかでの生活を余儀なくされています。この問題を考えていくうえでのキーワードは「視線の非対称性」ではないかと考えております。通常の人間社会の中で、人と人が互いを見るときには、その視線は対称性を帯びています。つまり、私があなたを見ると同時にあなたも私を見ることができ、見る・見られるれるという関係が対等です。
しかし、監視カメラは私たちを一方的に監視し、映像を撮影し、その映像を蓄積することも利用することも、対等な関係にない誰か・監視するものによって所有され監視される側の人間はその映像に関われないままです。逆に、監視するものが監視されることはほとんどない場合は、「視線の非対称性」が存在しているといえます。
 フーコーの「監獄の誕生」という本の中で、ジェレミー・ベンサムが考案した「パノプティコン(一望監視装置)」の事例が紹介されています。極めて経済的で効率的な監視装置としての監獄は、大きな円形の建物で、中央に監視塔が配置されており、その周りに、囚人の独房が何十・何百と配置されています。その独房には、監視塔側と反対側に窓が設けられており、室内は隅から隅まで見通せるようになっています。逆に、監視塔の内部は、光線の配置等によって一切見ることはできなくなっています。つまり、絶対的な「視線の非対称性」が存在しており、独房の囚人は監視され、見られる存在であり、監視する看守を見ることはできない。そのことによって、見られる存在の囚人は、24時間、365日、監視されているということをいやがうえにも、自覚せざるを得ません。そのような生活は、いつの間にか、自分の内面にも、監視者を内在させ、監視するものが何もしなくても、自発的に、監視する側の望む姿に自己を作り替えていくのです。そのような装置は、監獄だけでなく、軍隊や会社、学校や病院、さらにはありとあらゆる社会に蔓延していくと言うことがフーコーの見立てです。
今の日本では、秘密保護法が成立し、情報公開の原則が歪められています。
一方で、国民一人ひとりに番号を付与するマイナンバー制度が実施されようとしています。これらの動きも、権力者は一方的に情報を把握し、国民を監視しコントロールする対象としてとらえていることは間違いがありません。「視線の非対称性」「情報の非対称性」が私たちの生活を変えようとしています。私たち一人一人が自分の生活やものの考え方をコントロールし自己実現していく社会を目指していくべきではないのか?小さな自治会の近隣騒動としての監視カメラの設置は、極めて奥が深い問題を内包していると悩んでいる今日この頃です。

Last Updated on 2020年9月26日 by manager

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